ふがしがどん、と机をたたき、もう辛抱たまらん言っちゃうといった様子で叫んだ。「あたしもキンメの煮付け食べたい!」先日の記事を読んで、あまからくてぷるぷるでほろほろで針生姜をちょっと乗せた真っ赤なやつを喰いたくて喰いたくてたまらなくなってしまったらしい。

そして我々は三人で車に乗り込んで銚子に出かけた。千葉東金道路からのんびり走って3時間で銚子港に到着。海は折からの低気圧でものすごい荒れようで、しぶきとなった潮が風に乗って町中を吹き荒れていたが、空はまっすぐに青く晴れていた。取る物もとりあえずいつもの「浜めし」に飛び込むと、地元民で賑わう店内はわいわいと熱気が満ちていた。刺身定食と三色丼もうまかったし、ほうれん草のみそ汁が絶品だったが、何よりあまからくてぷるぷるでほろほろで針生姜をちょっと乗せた真っ赤なキンメダイがうっとりするほど最高だった。
相席で40代のカップルと隣り合った。女性の方ははしゃぎすぎ、対する男性はテンションが下がりすぎ。余計なお世話なんだが、呼吸がいまいち合っていない様子。それを指をくわえながら不思議そうに観察するこむぎちゃんは、どこへ行っても騒いだりしないで、ざぶとんの上にちょこんと座ってニコニコしている。はじめて見る物ばかりできょろきょろしているが、時折我々を見上げて確認し、うへへお前ら面白いな楽しいぜ人生最高だぜと笑う。
満腹になって港を出て市内に入り、先日見つけたナイスなお団子屋さんに寄る。「甘太郎焼(いわゆる大判焼きもしくは今川焼きの関東名)」がカンバンになっているが、ここはダンゴもうまい。注文するとすぐに香ばしく焼いてくれ、みたらしとあんこの二種類が選べる。田舎だけあってお年寄り仕様にあくまでも柔らかくて、甘みが控えめなあんともちもちした米の香りがいい。ご馳走でふくらんだ胃袋とは"別の腹"にダンゴを詰め込む。お茶を頂いている間にも近所の人が「ダンゴ10本くれ」「あんこを5本ちょうだい」と次々にやってくる。元気で面白いご亭主と奥さん、その母上らしいしわしわのおばあちゃん、それとやはり身内らしいおばちゃん。お店は彼ら一家のにぎやかな笑い声で暖かい。
店内にはドリフで使うような大きなたらいが置いてあり、水を張った中に寒天がごろごろ泳いでいる。テングサを海辺や道ばたで干して作った、潮の香りもさわやかな手作りだ。腰の曲がった割烹着のおばあちゃんに注文すると、酢醤油と黄からしを添えたところてんと、箸代わりの竹串を二本。さらにまあ座っていきなさいとお茶をこぽこぽ煎れてくれる。帰りにみたらし団子を5本、包んでもらった。

ここいらで面白いものは無いかと聞くと、口を揃えて近くのヒゲタ醤油工場がおすすめだという。見学すると多くの料亭でも使われている高級醤油「本膳」がもらえるそうだ。商売柄、醤油のチョイスには厳しいダンゴ屋さんだけに、ここは是非とも行くべきだろう。"銚子を母に、江戸を父に"持つヒゲタ醤油は1616(元和2年)創業で400年の歴史を持つ関東随一の老舗だ。銚子の駅のすぐ近くに巨大なタンクと工場が広がっている。
ゲートをくぐると休日らしく場内は静かだったが、香ばしい醤油の香りが立ちこめてよだれが出そうになる。工場はお休みなので施設は見れなかったけど、かんたんな映画を見て資料館を回る。醤油樽を削り出す、人間より大きい巨大なカンナにはたまげた。案内のおねえさんが高級銘柄「本膳」の卓上小瓶を二つおみやげにハイとくれた。満足。
そうそう、忘れていた、アオサを切らしていたんだった、と「ウオッセ21」なる市場へ。もらった醤油で刺身にしようと探したが、悪天候のため船が出なかったらしく、干し物や冷凍物が殆どだったので、乾物だけ買うにとどめた。安いのでいいんだが観光客が多くてちょっと残念。

最後の締めは屏風ヶ浦を眺める大展望の、風車がある喫茶店。遠くに見えるのは鉄塔ではなく、数え切れないほどの風力発電機。子供が産まれる数年前、はじめてここへ来たとき、風車の脇に鉄の杭が打たれて一頭の山羊がつながれていた。壮大な屏風ヶ浦の大パノラマをバックに、鉄杭を中心にぐるぐると徘徊し続けていた。その労働の結果として杭の周りは無益に深く削れ、痛ましくも不思議な光景だったが、その姿もなく輪になっていた地面も芝生が茂っている。珈琲とティラミスを運んできた給仕の奥さんに彼について聞くと、ええ老衰で死んでしまったんですよ、と思いの外軽く言われた。そんな人生はイヤだね。

さて、今日はもう十分楽しんだので、海岸沿いに帰る。冬の夕日は早い。4時くらいから空は赤みを帯び始め、波は激しく砕けてはまた押し寄せる。帰りは東関東自動車道で帰り、スーパーで刺身を買ってきて、さっきもらった醤油で食った。たしかにすげえ香りできれいな色だったし、その容器、色のセンスはどうかと思うが、液だれしないし良くできていたよ。


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