日本列島を寒さが覆い尽くしている。
こんな寒い時期になると、僕はある記憶が蘇る。
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僕とn氏は無精髭の伸びた頬を寄せ合いしっかと抱き合いながら浜辺を見つめていた。お互いが触れているところがほのかに暖かい。青い海のはるか向こうに光る珊瑚のビーチは、太陽の光を固めて砕いたような暖かいクリーム色をしていた。
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時は学生時代。20日間にも及ぶ奄美大島での合宿を無事完遂した僕らは現地で歓喜の祝杯を挙げると、それぞれの旅へと分かれた。長期に渡る緊張から解き放たれ、まめだらけの足を引きづりつつも、異郷で自由な体を存分に楽しむのだ。ある者はさらなる秘境へ。あるものは本土の辺境へ、またある者は家路へ。1年生の僕は当時リーダーをしていた3年のn氏と二人でつるんで歩く事にした。もちろん二人ともその気は無い(念のため)。
やってきたのは与論島。僕らはさっそく珊瑚礁の素潜りをすることにした。入水ポイントまではグラスボートという船底がガラスでできた小舟で連れて行ってもらう。離島だけあって見たこともない魚や貝が見渡す限り広がっている。ポイントに到着すると、エンジンが止まるのももどかしく飛び込む。薄っぺらいウェットスーツの隙間から冷たい海水がどっと流れ込んで全身がぶるっと震える。沖縄といえど冬の海は冷たく、海上を吹き付けてくる風も侮れない。しかし、そこには写真でもテレビでも見たことのない美しい光景が広がっていた。寒さよりも感動が体を前進させた。
僕らは歓声をあげて泳ぎ回っていると、傍らのグラスボートでタバコを吹かしていた親父が何か言っている。“客を浜まで迎えに行ってくるからちょっと待ってろ”という事らしい。そろそろ寒さを感じ始めていたし、膀胱に圧迫感を感じていたが、軽く考えていいよいいよ、と波間から手をあげた。ボートは舳先を返して浜辺へ帰って行った。それが間違いの始まりだった。
すぐ帰ると言っていた船は去ったまま帰ってこない。常夏沖縄の海も季節は真冬。海を渡ってくる風は容赦なく体温を奪い、薄いウェットスーツでは30分も入っていられない。ふっと不安がよぎる。お互い顔を見合わせる。
「…結構寒いですよね」
「うん、まあじき来るだろ」
「そうすよね」
どうにかして暖を取りたい。しかしここは海のど真ん中だ。休めるのはかろうじて水面下30cmほどのサンゴの上しかない。ああしかしもろくかけがえのないサンゴに座るのは忍びない。スーツ内の海水を循環させないよう動きを最小限にする。n氏を見れば唇が紫を通り越して黒ずみ、死斑の様相だ。僕も鼻水が蛇口のように流れ、頭痛がしてくる。
「遅そそそいすね」
「そっそそそうだな」
ウェットスーツの中に小便を出して暖を取るが、すぐに冷水が裾や襟首から進入してくる。あごは歯の根もあわないほど振動を繰り返して震えることもできなくなってきた。関節が硬直して泳ぐこともままならない。それに、ああ、だんだんと潮が満ちて来始めた。スーツの浮力がある僕らは座っていることすらできなくなってきた。
「しすすっすすっすす(死ぬ死ぬ死ぬ)」
「うぇうぇうえっつつ(意味不明)」
風邪を引くのは仕方がないとしても、ウェットスーツで下痢腹でもなったら目も当てられない。生命の危機だ。クソまみれで土左衛門はごめんだ。こうなったら山を思い出せ。体温が低下したときは…そうだ、互いの体で暖めあうのだ。恥ずかしいなどと言っている場合ではない。二人はどちらともなく体を寄せ合いひしと抱き合った。
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沖の珊瑚礁の上に寄り添って抱き合う男二人。
僕とn氏は無精髭の伸びた頬を寄せ合いしっかと抱き合いながら浜辺を見つめていた。お互いが触れているところがほのかに暖かい。青い海のはるか向こうに光る珊瑚のビーチは、太陽の光を固めて砕いたような暖かいクリーム色をしていた。
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そんな記憶が時々よみがえる、寒さが身に堪える今日このごろです。

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